王様の名前の作法について。

「王家」初期の頃には良く出てきました。
「サーラー」たる神の子、と言うフレーズを王様は数回口になさっています。
この「サーラー」、「ラー神の息子」と言う意味で誕生名にあたります。つまり、生まれた時に与えられた名前です。

実は、古代エジプトの王様は5つも名前を持っていました。

誕生名「サー・ラー・〜〜」(ラー神の息子としての名前)
即位名「ネスウト・ビーティ〜〜」(上下エジプトの王としての名前)
ホルス名「ホル・〜〜」(ホルス神の化身としての名前)
二女神名「ネブティ・〜〜」(上下エジプトの守護女神に保護されたる者としての名前)
黄金のホルス名「ホル・ネブゥ・〜〜」(ホルス神の人間としての顕現を表す名前)

正式には5つの名を揃えたそうですが、普段は誕生名、即位名、ホルス名が刻まれ、その中でも誕生名と即位名が重視されたらしいです。この二つだけがカルトゥーシュ(シェン)に守られていましたしね。

実は王様の名前のうちで一番重要なのは即位名「ネスウト・ビーティ」でした。
格好良いじゃないですか、「ネスウト・ビーティ」
ヒエログリフでは上エジプトの象徴の菅(ネスウト)と下エジプトの象徴の蜜蜂(ビーティ)が刻まれています。
意味は「菅と蜜蜂に属する者」です。
刻まれたヒエログリフを写真で見てもとても華やかです。さすが王様の正式名。
「サー・ラー」も悪くないけれど、「ネスウト・ビーティ」の方が数段格好良いと思うのです。

ちなみにかの有名なラムセス二世陛下の即位名は「ネスウト・ビーティー・ウセルマートラー・セテプエンラー」でした。

今は即位名が有名な王様よりも、誕生名が有名な王様の方が圧倒的に多いです。たまにアクエンアテン陛下のように即位名の方が有名な方もいらっしゃいますが。

この即位名は戴冠式を経て即位するときにつけられる名前なので、即位前から呼ばれている名ではあり得ません。
つまり、メンフィス王様の正式な名は未だに「名無しの権兵衛さん」なのです。
どっか他所の国に行った時とか、他所の王様に会う時とかはネスウト・ビーティ名で呼ばれたんでは無いかと思うんですけどね。


ちなみに、王様の名前はギリシア読みです。
正式には「サー・ラー・メン・ネフェル」だと思われます。
良い名前ですよ。「ラーの息子・永遠に美しい」と言う意味ですから。

この「メン・ネフェル」テーベ以前に何度か首都となった下エジプトの都市の名です。
「メン・ネフェル」=ギリシア読みで「メンフィス」です。

三十年前の資料は今からは考えられないほどに貧弱だったと思うんですよ。だから作者先生を非難するつもりは全くありません。

でも、やっぱり「ネスウト・ビーティ」は捨て難い。

どなたかメンフィス王様の即位名をお願い致します。
彼がネスウトビーティ名で呼ばれる所を見てみたいなぁ。