へびのはなし。

ブトの町にほぼ相対したアラビアの一地方があるが、私は例の翼のある蛇について調べるためにこの地方を訪れたことがあった。いってみて私の目にしたのは、筆舌に尽し難いほどのおびただしい蛇の骨と背骨であった。背骨の堆積がいくつもの山を成しており、その山は大きいのもあれば、やや小さいもの、さらに小さいものと、さまざまであった。背骨の堆積している場所の地勢はといえば、それは狭い山間の峡谷が広い平野に開けようとするあたりで、この平野はエジプト平野に連なるのである。言い伝えによれば、春になると翼のある蛇はアラビアからエジプト目指して飛んで行くが、イビスという鳥が国の入り口で迎え撃ち、蛇の侵入を許さず殺してしまうという。イビスはこの功によってエジプト人から大いに尊重されているのだ、とアラビア人はいっている。そしてエジプト人も、自分たちがその理由でイビスを尊重していることを認めているのである。

「歴史」巻二(エウテルペの巻)七五

思わずこれかと思っちゃいましたよ。空飛ぶ蛇。
この蛇、水蛇(ヒュドラ)のような形で、翼は蝙蝠のような形状しているらしい。
ちなみに「イビス」とはトト神の化身アフリカ黒朱鷺でございます。
でもなんかちょっと違うけど。

さてそのイビスの形状はといえば、全身漆黒で鶴のような脚をもち、嘴は極度に彎曲し、大きさはくいなほどである。これが蛇と戦う黒色のイビスの形状である。ところがイビスには二種あって、前者と異なり好んで人間の足許に徘徊する種類のイビスは、頭から咽喉部全体にかけて羽毛が無く、頭と頚部と翼の先端および尾の末端(これらの部分はすべて真黒である)を除いては毛並が白い。しかし脚と嘴とは前述の種類のイビスによく似ている。

「歴史」巻二(エウテルペの巻)七六より


岩波文庫の注釈では、後半の「イビス」がエジプトで神聖視されている「イビス」アフリカ黒朱鷺だと書いてあります。
って事は、前半の「真黒イビス」って何?

エジプト目指して飛来する蛇と迎え撃つ黒朱鷺(?)。おお、なんかカコイイ!!
急に「歴史」がSFスペクタクルに思えてきました。