「アポピとセケンエンラーの争い」まとめ。

かつて、全土を支配する王が存在しなかったが為に、エジプトが悲惨な状況だったことがあった。
 当時のセケンエンラー王(生き、栄え、健康であれかし!)は南の都市・テーベの統治者でしかなかった。
 不幸にしてアジア人の町・アヴァリスにアポピ王(生き、栄え、健康であれかし!)が存在し、エジプトの全土はアポピ王に貢物を捧げ、労働税を届け、そして北部でさえ三角州のあらゆる優れた産物を持参した。

 アポピ王は支配者としてセト神信仰を取り入れ、セト以外のエジプト全土の神々に奉仕する事を拒絶した。
 アポピ王は王宮の隣に、見事な出来栄えの不朽の神殿を建立した。そして正にラァ・ホルアクティの神殿で行われるのと同じように王宮の役人が花輪を運んでいる間、彼は毎日セト神に犠牲を捧げるために日の出と同時に現れた。

 今や、アポピ王はテーベの王であるセケンエンラー王へ、挑発する声明を届けることを望んだ。
 その数日の後、アポピ王は王宮の高官を召喚した。そしてテーベの王へ、彼が解決する事の出来ぬ、河に関する不満の声明を送ることを提案した。
 すると彼の書記と賢者、高官達は言った。
「おお、統治者である私達の主人よ。テーベの東に位置する運河の河馬の<立ち退きを要求し給え。何故なら、それらの雑音が我々の人民の耳について私達を昼も夜も眠らせぬのです」
 そしてアポピ王は彼等に答えて言った。
「私はテーベの王に、彼と共にある守護神の力を試してやるという命令を送ろう。彼は全土の神の中でも、神々の王であるアメン・ラー以外を頼らないのだから」

 この数日後、アポピ王は彼の書記と賢者が彼の為に捏造した苦情を、テーベの王へ送った。

 そしてアポピ王の使者はテーベの王の許に到着し、彼はテーベの王の面前に引き出された。

 セケンエンラーはアポピ王の使者に言った。
「何故お前は南の町に送られたのか?何故、お前はここへ旅してきたのか?」と。

 使者は彼に「『テーベの東に位置する運河の河馬を立ち退かせよ。何故ならそれらの雑音は彼の市民の耳について、私を夜も昼も眠らせないからだ』と、あなたに命ずるために私を遣わせたのは、アポピ王です」と言った。

 テーベの王はアポピ王の使者に返答する事が出来ず、しばらくの間茫然とした。
 ついにテーベの王は、彼に言った。
「お前の主人が申したきは、テーベの東の運河の河馬達に関する問題を取り調べたい、という事か?」

 そして使者は彼に言った。
「彼が私を遣わせた重大事を、抜かりなく成し遂げて下さい」

 するとテーベの王はアポピ王の使者を引き起こし、肉やケーキなどの良き物で歓待した。

 テーベの王は彼に言った。
「行ってお前の主人に申せ。『あなたが彼へ命じる事が何であれ、彼は行うだろう』と。そのように彼に申せ」

 そしてアポピ王の使者は、彼の主人の許へ急いで旅をした。

 テーベの王は、彼の各高級軍人ばかりでなく彼の高官も呼び出し、そしてアポピ王が彼に送った全ての問題に関する事を繰り返した。彼らは、それが良いとも悪いとも答える事が出来ずに、皆一様に長い間沈黙した。

 そしてアポピ王は送った……

(物語の残りは失われた)
 

Edward F. Went氏による翻訳
William kelly Simpson氏編集
古代エジプトの文献
New Haven and London, 1973, pp. 77 ff
出典 Pharaonic Egypt http://nefertiti.iwebland.com



※この訳文を作成するのにあたり、西村洋子先生、Lwlw様、鎌田様に多大なるご協力を頂きました。
 心よりの感謝を申し上げます。本当に有難うございました。