空飛ぶパンについて。
前回、トリノ・エジプト展で展示されていた「死者の書」に描かれていた、「空を飛んでいる三つのパン」に注目しました。
おそらくアレはパンだろうという結論に至りましたが、今日はいくつかの死者の書を見比べてみます。
死者の上に三つのパンが並んでいる場面は、「死者の書」のなかでも第110章「セケト=ヘテペト」(楽園)の場面を描いたものになります。
カラー版 死者の書―古代エジプトの遺産パピルスに載っているのは、紀元前1500〜1400年(第18王朝か第19王朝)作成の大英博物館の「アニのパピルス」なのですが、その説明によると、
第110章 ここではエジプトの楽園である<平和の原>が示されている。この地の神およびその都はともにヘテプと呼ばれる。
とあります。
さて、この「セケト=ヘテペト」場面でアニの乗る舟の上にあるのは、山盛りの御供物です。
拡大図
「カラー版 死者の書―古代エジプトの遺産パピルス」p156より画像をお借りしています。
次に「ネブセニのパピルス」(第18王朝作成)のセケト=ヘテペトの場面では、ネブセニの舟の前に三つの丸いシンボルが縦に並んでいます。
拡大図
「エジプトの死者の書 宗教思想の根源を探る」p220より
「フネフェルのパピルス」(第19王朝作成)のセケト=ヘテペトの場面でも、フネフェルの舟にはなにも載っていません。
「カラー版 死者の書―古代エジプトの遺産パピルス」p142より
次の「アンハイのパピルス」(第21王朝作成)で、アンハイとその夫の乗る舟の上には、何も載っていません。
「カラー版 死者の書―古代エジプトの遺産パピルス」p139より
最後に、「町」の決定詞に良く似た3つの丸いモノが空を飛んでいる「ツリンパピルス」(プトレマイオス朝作成)です。
この舟の上には、山盛りとまではいきませんが、御供物が積まれています。
拡大図
「エジプトの死者の書 宗教思想の根源を探る」p227より
あと、ルーブル美術館のHPでも、末期王朝時代の「ジェドホルのパピルス」の第110章で、空飛ぶ3つのパンを見る事が出来ます。
こちら からどうぞ。
虫眼鏡マーククリックで、拡大図が見られます。
やはり四隅にへこみ?のついたパンが、縦に3つならんで空を飛んでいますね。
どうやら死者の書第110章「セケト=ヘテペト」の場面では、死者が操る舟の上には、元来山盛りの御供物が載せられていたようです。
そしてその御供物は省略されて描かれなくなるか、四隅に指の形の凹みor切り込みのある3つのパンが(なぜか)空を並んで飛んでいるように表現されたようです。
しかし、何故3つのパンだったのでしょう?
しかも、何故そのパンは四隅にへこみがなければならなかったのでしょう?
うーん。やっぱり古代エジプト人はパン大好きだったからでしょうか……
※9/24追記
上記「ヒエログリフを読む事典」からお借りしています。