KV55

KV55

王家の谷で55番目に発見された墓の名称です。


この墓の主の正体については、未だにエジプト学者間でも論争が繰り広げられているそうな。
歴代の王墓でも異例な、二重の封印で閉ざされた王墓でございます。
その墓の主の棺が、こちら。
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棺の顔の部分が意図的に引き剥がされています。
そして、胴体に刻まれていた筈の、王名を示すカルトゥーシュまでも四角く切り取られていました。
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先日の日テレ、そしてTBSの番組でエジプト考古庁長官ザヒ・ハワス教授によってアメンヘテプ四世「アクエンアテン王」の王墓であると説明されておりました。

しかし、大英博物館 古代エジプト百科事典では

1907年、セオドア・デイヴィスが「王家の谷」の第55号墓(KV55)で王族の若い男性の遺体を発見した。この遺体は、主として王妃ティイのものである副葬品一式とともに再埋葬されたことが明らかであった。かつてはこれこそがアクエンアテンのミイラだとされていた(現在もそう考えるエジプト学者がいる)が、今ではほとんどの研究者が、このミイラをスメンクカーラーのものとする仮説を立てている。

という記述があります。


この棺の中にあったミイラは、男性「王」のミイラであるにもかかわらず、両手を胸の上で交差させる「王のポーズ」で葬られてはおらず、片手を伸ばした女性「王妃」のポーズで葬られていたそうな。
そして僅かに残った副葬品はアメンヘテプ3世の王妃ティイのものであることが明らかになっています。


顔と名前の切取られた人型棺、二重に封印された王墓、死後性転換されて再埋葬されたミイラ。
これらの特異性から見ても、このKV55号墓の主はとても興味深い人物であるのに違いありません。


ちなみに王家の谷での位置関係はこちら。

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数字が王墓番号ですね。KV55は「55」です。
そして、その向かい側にある「62」KV62が、あの有名なツタンカーメン王墓です。

実は、KV55号墓の棺のなかにあったミイラは、稀にあった豪雨による浸水を受けて腐敗してしまい、白骨と化しておりました。
ですが、血液検査によって、このミイラとツタンカーメンのミイラとは非常に近しい遺伝子を持っているという調査結果が明らかになっています。
それこそ「ツタンカーメン」と「KV55ミイラ」は「兄弟」である位に近しい血族だとか。

また、KV55号墓にはほとんど副葬品らしきものがありませんでした(ティイ王妃の副葬品含め)
それに引き換え、向い側のツタンカーメン王墓には豪華絢爛な副葬品に溢れていました。


しかし、ツタンカーメン王の二番目の人型棺は「スメンクカーラー王」のものを「ツタンカーメン王」に再利用されていました。
更にツタンカーメン王のカノポス小棺や数多くの装飾品も「スメンクカーラー王」のものを「ツタンカーメン王」の為に転用したものであった事が分かっています。
それは一体何故なのか。そしてKV55号墓の主は一体誰なのか。


これらの謎を鮮やかに解説してくれるのが、


消されたファラオ―エジプト・ミステリーツアー

消されたファラオ―エジプト・ミステリーツアー


です。


一言、御断りを入れておきますと、この本の著者はエジプト学者ではありません。

著書 グレアム・フィリップス
1953年生まれの英国の歴史作家。ケンブリッジ大学などの講師、雑誌編集者、BBCの番組プレゼンテーターの経歴を持つ。歴史上の謎とされている人物や出来事を調査し推理するノンフィクションを得意とし、おもな著書に「アーサー王の真の物語」(1992年・共著)「シェークスピアの陰謀」(1995年・共著)「聖杯探究」(1995年)などがある。

本書巻末より転載

ですが、この本を読むと、何故アクエンアテンの宗教改革が国民、特に軍隊に目立った抵抗も無く受け入れられたのか、アテン神信仰が「ヘブライの神」信仰に酷似しているのか、納得する事が出来ます。

この本の内容がすべて真実だと断言する事は出来ません。
しかし、謎多いアマルナ王朝を深く分析する、良質の歴史ミステリーである事に間違いはありません。


後半は、ちょっと「あれ〜?」と思うような強引な論説展開もありますが、梅原考古学が御好きな方には是非おススメしたい本です。


ちなみに、この本はザヒ教授の持論と違って

ツタンカーメンはアメンヘテプ三世の子であり、アクエンアテンとスメンクカーラーの異母弟であるという説が展開されています。

昨今のテレビで繰り返される「ツタンカーメン=アクエンアテンの子」という説の異論を読みたい時にも。

※画像は全て Wikimedia Commons からお借りしました。